【主張】党首討論 憲法こそ語るべき問題だ(産経社説2007/05/17)  安倍晋三首相と民主党の小沢一郎代表による党首討論が行われた。通常国会も終盤が近づいたこの時期に、今国会で初めて実現した。  ここまで遅れた原因は開催に消極的だった小沢氏の側にあるが、問題は討論の中身である。  2日前には憲法改正手続きを定める国民投票法が成立した。歴史的なタイミングに開かれた党首討論だというのに、憲法論議をまったく素通りしてしまったのは残念である。  国民投票法の成立に力を注いだ安倍首相が、みずから口火を切っても良かった。民主党が自公両党との協調路線を捨て、最終段階で反対に回った理由について、小沢氏から直接、言い分を聞くこともできたはずだ。  ミサイル防衛(MD)などの日米協力をめぐり、集団的自衛権行使と憲法解釈の議論も活発化している。二大政党のトップが、この局面で憲法を取り上げないのは理解に苦しむ。  安倍首相は、聞かれなかったから答えなかったというだろうが、党首討論は通常の「政府対野党」の攻防とは異なる。両党首が攻守所を変えて激しく論戦を展開するのでなければ、開く意味はない。各党は最初に発言する順番を交互にするなど運営方法を再検討してはどうか。  国民から厳しい視線が向けられている政治とカネの問題にも、触れられることはなかった。  与党側はようやく、5万円以上の経常経費支出に領収書を添付する方針を決めた。民主党案との相違点はあるが、両党首には「今国会で必ず法改正を実現しよう」と約束するぐらいの意気込みを示してもらいたかった。  国と地方の格差問題や教育再生のあり方が取り上げられた点は評価したい。小沢氏が政府の姿勢はいずれも中央集権的だと主張し、首相がすでに着手した改革の意義を説いて反論する構図は見えてきたが、まだ深みのある議論にはなっていない。  久しぶりの党首討論で充実した中身を期待していた人たちにとっては、これをもって選択肢にしろといわれても、はなはだ材料不足だろう。  参院選で問われる党首力には、国民の関心事項をつかみ、それに的確に答えるという要素も含まれるはずだ。次回の討論にはそれを期待したい。 (2007/05/17 05:03) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 党首討論―もっと憲法を論じよう(朝日社説2007/05/17)  ようやく今国会で初めての党首討論が実現した。安倍首相と小沢民主党代表が論戦を交わすのは昨年11月以来、半年ぶりのことである。  この間、さまざまな出来事があったが、最大のテーマはなんといっても憲法改正の問題だ。首相は正月の記者会見で、改憲を夏の参院選挙で訴えると語り、その意欲を示すために与党をせかしにせかして国民投票法を成立させた。  小沢氏が冒頭から、憲法を取り上げたのは当然のことだろう。首相の著書「美しい国へ」を引きつつ、次のように切り込んだ。  「首相は『日本の国柄をあらわす根幹が天皇制』だという。首相の描く『美しい国』の根幹には天皇制がある。それが敗戦によって、占領軍によって憲法や教育制度が改変され、『美しくない国』になった。だから自分たちの手で作り直さなければならないということなのか」  これまで首相が語ってきた改憲論ににじむ、復古主義の色を強調しようとの作戦だったのだろう。  首相は「日本人が織りなしてきた長い歴史、伝統、文化をタペストリーだとすると、その縦糸は天皇だ」と応じ、伝統や歴史を重んじる国づくりへの思いを語った。  興味深い論争になりそうだったのに、小沢氏があっさりとほかの話題に転じ、生煮えで終わってしまったのは極めて残念だった。  だが、短い論戦から見えたこともあった。この60年間の戦後日本の歩みを語る時の、首相の批判的な視線である。  教育改革をめぐって、首相は60年前の日本をこう評価した。「大家族で地域がみんな顔見知りで、子供たちを家族で、地域で教育していく仕組みがあった」  それなのに、と首相は戦後日本を次のように批判する。  「経済は成長したが、価値の基準を損得だけにおいてきた」「損得を超える価値、例えば家族の価値、地域を大切にし、国を愛する気持ち、公共の精神、道徳を子供たちに教える必要がある」  時間が少なかったし、そう問われなかったということもあっただろう。だが、この60年、憲法の下で民主主義、人権、平和主義を培ってきた国民の「成果」に対する肯定的な評価は、安倍氏からはまったく聞かれなかった。  では民主党は、あるいは長年の改憲論者である小沢氏自身は「戦後」をどう評価しているのか。そもそも安倍流の改憲論にどんなスタンスで臨むのか。賛成なのか、反対なのか。小沢氏はほとんど胸の内を語らなかった。  党首同士が国の基本について論じ合う。それが党首討論なのに、肝心かなめの憲法の問題で自らの態度を述べないのでは、その意味がない。  まだ会期は1カ月と少し残っている。できるだけ早く次の討論をもち、改めて真正面から憲法を論じるべきだ。