『寛仁さま 発言はもう控えては』(朝日社説2006/2/3) 皇位継承のあり方をめぐり、天皇陛下のいとこにあたる寛仁(ともひと) さまの発言が相次いでいる。 昨年、会長を務める福祉団体の機関誌に随筆を寄稿したのに続き、月刊誌 「文芸春秋」などでインタビューに応じた。さらに産経新聞と、同社が 発行する雑誌「正論」にインタビューが載った。 初代の神武天皇から連綿と男系が続いているからこそ皇統は貴重なのだ。 戦後に皇籍を離れた元皇族を復帰させるなどして男系維持を図るべきだ。 いずれもそうした趣旨の発言である。 小泉首相から皇位継承のあり方を諮問された有識者会議は、女性天皇や その子の女系天皇を認める報告書をまとめた。政府はこの報告書に沿って 皇室典範の改正案を準備中だ。 寛仁さまの発言は、この報告書や首相の方針に異を唱えるものである。 だれを天皇とすべきか。皇位継承は天皇制の根幹にかかわる問題だ。 国民の間で大いに論議しなければならない。 皇族にも様々な思いはあるだろう。自らにかかわることだけに当然だ。 だが、それを外に向かって発言するとなると、どうか。改めて考える 必要がある。 当事者である天皇や皇族がどう考えているのかを知りたいと思う人もいる だろう。自由に話をさせてあげたらいい、という人もいるにちがいない。 皇太子妃の雅子さまが体調を崩したときに、私たちは社説で、心のうちを 率直に語ったらどうかと主張した。 しかし、今回の一連の寛仁さまの発言は、皇族として守るべき一線を 超えているように思う。 寛仁さまはインタビューで「皇族は政治にタッチしないという大原則 があります」と述べている。その大原則に反するのではないかと 考えるからだ。 憲法上、天皇は国政にかかわれない。皇位継承資格を持つ皇族も同じだ。 寛仁さまは皇位継承については「政治を超えた問題だ」と述べている。 歴史や伝統の問題ということだろう。 しかし、天皇制をどのようなかたちで続けるかは国の基本にかかわる ことで、政治とは切り離せない。まして、いまは政府が皇室典範の 改正案を出そうとしている時期である。 たとえ寛仁さまにその意図がなくても発言が政治的に利用される恐れが ある。それだけ皇族の影響力は大きいのだ。 天皇は日本国民統合の象徴だ。国民の意見が分かれている問題では、 一方にくみする発言は控えた方がいい。これは皇族も同じである。 天皇陛下は記者会見でたびたび女性天皇や皇位継承について質問されたが、 回答を控えてきた。皇太子さまも会見で質問されたが、やはり答えなかった。  おふたりとも、憲法上の立場を考えてのことにちがいない。 寛仁さまひとりが発言を続ければ、それが皇室の総意と誤解されかねない。 そろそろ発言を控えてはいかがだろうか。