『ミャンマー人権決議案、廃案 国連安保理』(産経)  【ニューヨーク=長戸雅子】政治犯の無条件解放などミャンマー軍事政権に人権状況の改善を求めた米英の国連安全保障理事会決議案は12日、中国・ロシアの拒否権行使で否決、廃案に追い込まれた。中国は1999年2月、ロシアは04年4月以来の拒否権行使で、中露(旧ソ連)による同時行使は72年以来。  安保理が人権・人道問題を正面から取り上げたのは事実上初めて。英国は「決議案は多数の理事国に支持された」と述べ、ミャンマー政府に明確なメッセージを送れたとの認識を示した。採決では米英仏など9カ国が賛成。中露と南アフリカ共和国の3カ国が反対し、インドネシア、カタール、コンゴ共和国の3カ国が棄権した。  ミャンマー問題をめぐっては、安保理が人権問題に介入する効果と必要性を主張する米欧と、これが前例となって自国内の人権問題に飛び火するのを恐れる中露がぶつかった。中露は「ミャンマーは(地域の)平和と安全への脅威になっておらず、安保理の所管事項ではない」と拒否権行使の理由を説明した。  ウルフ米国連次席大使は「安保理はミャンマー情勢を引き続き監視していく」と今後もかかわっていく姿勢を示した。  決議案は、ミャンマーで起きている「大規模な人権侵害」に「深刻な懸念」を表明。同国軍事政権に対し、自宅軟禁中の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんら全政治犯の無条件解放を要求した。全当事者による「実質的な政治対話」の開始や少数民族地域での軍事攻撃の停止も求めた。 ◇ ミャンマーは中国の戦略的要衝 資源・軍事で蜜月加速  【北京=野口東秀】中国がミャンマー決議案を葬り去った背景として、人権問題が自国にも向けられかねない懸念のほか、(1)ミャンマーが資源・軍事両面で中国にとって戦略的要衝に位置している(2)ライバルのインドがミャンマーに接近している−ことが指摘できる。  ミャンマーは中国にとって地政学的に見れば、インド洋に抜けるための要衝となる。昨年2月に続き10月にも訪中したミャンマーのソー・ウィン首相と会談した温家宝首相は「民族の和解を真に希望する」と国内の安定を求めたものの、ミャンマーのインフラ整備など経済関係を強化する方針を示した。  中国をにらむインドにとってもミャンマーは同じく要衝となる。ミャンマーが軍事面で対中傾斜を強めることを防ぐため、インドは偵察機を売却するなど攻勢を強めつつある。昨年3月にはインドのカラム大統領がミャンマーを訪問、エネルギー協力で合意した。  中国とミャンマー間では約1500キロのパイプライン敷設計画が進められている。中国が権益を獲得したミャンマー沖アンダマン海の天然ガスなどが対象になっているが、「台湾海峡有事など米軍がマラッカ海峡を封鎖した場合でも中東やアフリカからタンカーで運ばれてきた石油をミャンマー経由で中国に送ることができる」(政府系研究者)ことも念頭にあるようだ。  中国はミャンマーで道路、港湾、発電所建設や天然ガス開発などの援助を加速させている。専門家によると、すでに4000億円規模が投入されたとみられる。ミャンマー国内での経済特区建設計画やダム建設も多くが中国から支援を受けると予想されている。  民主化圧力と経済制裁に直面するミャンマーにとり「内政不干渉」の立場から援助を続ける中国は心強い味方だ。エネルギーの対中輸出が加速すれば経済制裁の効果も薄れる。こうしたことからミャンマーの対中傾斜が加速するのは必至だ。  中国は一党独裁体制を維持するため言論・報道分野や人権活動への締め付けを強化しており、国連安保理でミャンマーの人権問題が決議されれば、自国の人権問題にもはね返りかねないとの危惧(きぐ)があったとみられる。また、人権問題を抱えるアフリカ諸国と資源獲得のため関係強化を進める中国は「人権、民主化は内政問題」(中国外務省)との外交原則を貫くことが国益にかなうと考えたようだ。 (2007/01/13 22:11)