教育出版「中学社会歴史」批判その5(中世・後半)
今回は中世の後半。相変わらず酷い記述が散見されます。偏向だけじゃありません。
2.ゆれる武家政治
マル1.南北朝の争乱と室町幕府 室町幕府の成立
マル2.海賊船と貿易船 発展する東アジア
マル3.団結する村 村の自治、町の自治
マル4.下克上の世 土一揆と応仁の乱
マル5,中世文化の広がり 禅宗と東山文化
ひとびと探検隊 中世に生きた人々
学習のまとめ 第3章 中世の日本と世界
まず南北朝の争乱で「騎馬武者像」(重要文化財)が「南北朝争乱のころの武士の像」として載っています。この武者は足利尊氏のはず?と思って調べたら、どうも最近の研究ではそうとも言えないらしい。でも、紹介で「武士の像」はあまりに手抜きだろう…
次の海賊船と貿易船はすさまじい。
まず倭寇。この教科書では、「明は…沿岸をおそう倭寇に苦しみました…室町幕府に倭寇の取りしまりを求めました」「朝鮮は倭寇を取りしまる…」だけです。記述の手抜きもいいところ。
歴史的事実として、勘合貿易前は「前期倭寇」、後は「後期倭寇」とされます。
前期倭寇は日本人が中心の武装商人というべきで、明が「海禁政策」を取り私貿易を取り締まり、つまり役人が賄賂を取りまくったわけで、やむなく武装商人が戦った、と解釈すべきでしょう。シナにも協力者がたくさんいたから倭寇が活躍できたのです。また、後期倭寇はシナ人が中心。ちっとも「倭」じゃない。
アイヌ側の史観も大好き。「北海道南部に入り込んできた和人によって圧迫」(欄外に、アイヌの人たちが和人と呼んだことを記載)ですからねえ…
驚愕なのは欄外のコラム「ハングルの文字」。この教科書、内容が薄いから他にいくらも紹介すべきことがあるのに、歴史の教科書として明らかに余計な記述(怒)
「団結する村」「下克上の世」。一揆史観。どうもマルクスっぽいのが好きなようですねえ…
内容の薄さは文化史も。「中世文化の広がり 禅宗と東山文化」では、「禅宗の僧が中国朝鮮に派遣」「禅僧が中国からもたらした…水墨画」など、東山文化はシナ朝鮮の影響を強く受けている、とでも言いたげ。影響を受けているのは確かだけど、それを換骨奪胎して元の姿をとどめないほど和風の極みにしたのが東山文化ではなかったでしたっけ。
この表題を見れば、北山文化はどこに行った?と思いますよね。小項目「民衆に広がる文化」で、「義満の頃、世阿弥らが能として完成…」とあるだけ。え?と思い教科書を見直すと、金閣の写真は、文化史のところではなく、室町幕府の成立のところで、世界遺産の写真として載っており、その小さな解説は「義満は京都の北山に山荘を建てました。そのなかの金閣は、寝殿造、武家風のつくり、禅宗寺院の様式というように、各層が別々のつくり方となっています。義満は室町幕府の全盛期を築きました」。金閣は義満の栄華の象徴という趣旨でしょうし、それはそうでしょう。
でも、これでは武家的でありながら公家風の北山文化に対し、侘びの東山文化の比較もできません。こんな項目立て、ないだろう…
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コメント
ほんと、油断大敵ですねぇ。教科書チェックしなくては。
投稿: でこサングン | 2009年7月17日 (金) 16時37分
でこサングン様
偏向記述がたくさんあるだろうと予測していても、いくらなんでもハングルの説明が日本史の教科書にある、というのはまさに想像の斜め上の出来事でした。他の会社の教科書も酷いんでしょうねえ…
ついでながら、先程子供の「帝国書院地図帳」を見たら、台湾と中共は同じ色だし国境線もない。ひどいもんです。
投稿: 練馬のんべ | 2009年7月17日 (金) 21時41分
>ハングルの説明が日本史の教科書にある
特定地域の外国の方々が教科書執筆人に含まれて居るのでは?といふ疑念を補強するに足りる証拠ですね。教科書に関しての文科省の政策はダメダメです。
>この武者は足利尊氏のはず?と思って調べたら、どうも最近の研究ではそうとも言えないらしい。
尊氏の執事、高師直もしくはその息子が有力であると言はれて居ますね。さう言へば源頼朝や武田信玄像にも同様な話がありますね。現在の歴史学的成果の豆知識としてコラムにでもすればいいのに。ハングルを教へるより遥かにまともです。
投稿: 葦原屋 | 2009年7月20日 (月) 19時25分
葦原屋さん
>特定地域の外国の方々が教科書執筆人に含まれて居るのでは?
>といふ疑念を補強するに足りる証拠
まさに。
>尊氏の執事、高師直もしくはその息子が有力であると言はれて
はい。今回初めて知りました。
>現在の歴史学的成果の豆知識としてコラムにでもすれば
それは素晴らしいアイデア、ぜひ実現したいですね。
投稿: 練馬のんべ | 2009年7月20日 (月) 20時22分