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2007年7月21日 (土)

千年の釘

最近殺伐とした話が多かったので、ちょっと口直し。

『千年の釘に挑む』

小学5年の娘が使っている国語の教科書(光村図書)に、実に素敵な話が載っていたので紹介します。薬師寺の再建という大プロジェクトに挑んだ鍛冶職人・白鷹氏の話です。まずはご本人のお言葉を。

Sennennno_kugi「千年先に、もし鍛冶職人がいて、この釘を見たときに、おお、こいつもやりよるわいと思ってくれたらうれしいね。逆に、ああ千年前のやつは下手くそだと思われるのははずかしい。笑われるのはもっといやだ。これは職人というものの意地だね。」(写真は、白鷹氏が古代釘を再現し作成した釘の一本)

感動しました。この精神が日本人にある限り、子供達に伝えられている限り、日本は絶対に大丈夫です。なくなったら…それはあまりに恐ろしい。

これこそがまさに日本のものづくりの本質。建国以来続くプロジェクトXですね。

子供には、日本が嫌になるような話(しかも捏造…)ではなく、こういう素晴らしい日本の話を教えるべきです。鍛冶職人の白鷹氏、著者の内藤誠吾氏、採用した光村図書に敬意を表します。

(本文は続きに。少々長文ですがぜひお読み下さい)

『千年の釘に挑む』(内藤誠吾)

 千年先のわたしたちの周りはどうなっているだろう。あのビル、あのマンション、そしてわたしたちの住んでいる家々。きっと、かげも形もないだろう。人間のつくったもので、千年以上先までそのままの形で残っているものを見つけるのは、極めて難しいにちがいない。

 ところが、古代の人々はそれを成しとげた。奈良には、世界でいちばん古い木造建築がある。法隆寺は千四百年。薬師寺にある三重の塔、東塔が千三百年。コンピュータもブルドーザーもなかった時代に、古代の職人たちは千年たってもびくともしない建物をつくりあげたのだ。

Yakushiji  薬師寺では、一九七〇年、大がかりな再建計画がスタートした。 できた当時の薬師寺には、東塔と西塔、御本尊をまつる金堂、おぼうさんたちが修行する大講堂など、七つのすばらしい建物が空に向かってそびえ立っていた。それが戦国時代、戦火のために、東塔をのぞくすべての建物が焼失してしまった。これらをすべて、古代の建て方とできるかぎり同じ方法で、現代に再現しようというのだ。完成するまで、何十年もかかる大事業だ。(注:写真右が東塔、左が再現された西塔と大講堂)
 どうしたら、古代の人々に負けないものをつくれるのか。一流の職人たちが日本じゅうから総動員された。建物をつくる宮大工。かわらを作るかわら職人。そして釘を作るかじ職人にいたるまで。

 この、釘作りを任されたのが、四国のかじ職人、白鷹だ。千年たってもびくともしない建物をつくるには、釘も千年はもつものを作らなければならない。白鷹さんはまず、古代の釘と現代の釘が、どうちがうのかを調べることから始めた。調べてみて初めて、古代の釘の見事さにおどろいた。

 「釘なんて、いつの時代でも同じではないのか。」そう考えるかもしれない。しかし、それはちがう。今の釘の寿命は、せいぜい五十年。それ以上になると、空気や水にふれたところからさびて、くさってしまう。今の日本の木造家屋は、三十年ぐらいで建てかえをすることが多いから、これでも差し支えない。ところが、千年ももたせる建物には、こういう釘は使えない。

Kugi3_1   写真の、古代の釘を見てほしい。これが釘かと思えるほどの大きさではないか。長さが三十センチメートルもある。それだけではない。材料の性質もちがう。古代の釘も現代の釘も、材料が鉄であることは変わりはない。しかし、現代の鉄は、製鉄所で作られるときに大量生産と加工がしやすいように、いろいろなものが混ぜられる。つまり、鉄の純度が低いのだ。これに対して、古代の鉄はどうか。古代の鉄は、砂鉄を原料に、「たたら」という特別な方法で、何日間も火を燃やし、何回もたたき直して作られた。こうして作られた鉄は、きわめて純度が高い。純度の高い鉄は、錆びにくい。千年たっても錆びて腐らない。白鷹さんは、現代の方法で作られた鉄を使っては、求めている釘を作ることはできないと思った。製鉄会社に相談して、特別に純度の高い鉄を用意してもらうことにした。

Kugi1_1   白鷹さんは次に、古代の釘の形に注目した。古代の釘は、よく見ると不思議な形をしている。先からだんだん太くなって、頭の近くになるとまた細くなっている。そして、真ん中から先にかけては、表面がでこぼこしている。どうしてこんな形になっているのだろう。白鷹さんは調べてみて、驚くべきことを発見した。釘と木材の関係だ。古代の建物に使われているのは、樹齢千年をこえるヒノキだが、ヒノキのせんいには、圧縮されたら元の形にもどろうとする性質がある。三十センチメートルもある大きな釘を打ち込まれたときも同じことが起こる。少し細くなっている釘の頭のほうや、でこぼこしている先のほうは、打ちこんだときに釘とヒノキの間にわずかなすき間ができる。ヒノキのせんいは元にもどろうとしてふくらむから、やがてすき間はうまってしまう。こうなると、もう釘はぬけない。仮に頭の部分が空気や水にふれてさびてしまったとしても、釘の本体はヒノキにぴったりとくっつき、確実に木をつなぐ役目を果たすことになる。

 白鷹さんは形だけでなく、釘のかたさにもひみつがあることを発見した。釘はかたすぎてもやわらかすぎてもいけない。やわらかいとしっかりヒノキにつきささらないし、かたすぎると木のせんいや節をつぶしてしまう。釘がじょうぶでも、木をだめにしては、元も子もない。

Kugi2 白鷹さんはかじ職人だから、鉄に炭素を混ぜてたたくと、かたさを変えられることを知っている。白鷹さんは炭素を混ぜる分量を少しずつ変えて、実験してみた。最初の釘はかたすぎて、打ちこむと節をつきぬけてしまった。節がわれて、その周りの木のせんいまでいためている。これでは、木材自体が長くはもたない。次の釘は、少し炭素を減らして作ってみた。打ちこむと釘はまっすぐささっていく。とちゅうで節にぶつかった。すると、この釘はおどろいたことに、節をわらないように、ぐるりとその節をよけて曲がった。太い鉄でできた釘が、生き物のように節をよけたのである。古代の職人たちは、ちゃんとこのことを知っていたのだ。

 白鷹さんは、なっとくのいく釘を完成させるまで、何本も何本も作り直した。薬師寺の工事が始まって、釘を宮大工の人たちにわたすようになってからも、改良を続けた。そうして、これまで二万四千本もの釘を作ってきた。それでも、白鷹さんは、もっといい釘を作ろうとしている。 千年も前のかじ職人たちは、歴史に名を残すこともなく去っていった。それでも、すばらしいことをやりとげた。この職人たちに、負けるわけにはいかないのだ。
「千年先のことは、わしにも分からんよ。だけど、自分の作ったこの釘が残っていてほしいなあ。千年先に、もしかじ職人がいて、この釘を見たときに、おお、こいつもやりよるわいと思ってくれたらうれしいね。逆に、ああ千年前のやつは下手くそだと思われるのははずかしい。笑われるのはもっといやだ。これは職人というものの意地だね。」

 白鷹さんは笑った。千年前の職人たちも、同じことを思っていたのかもしれない。

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コメント

光村の教科書にこんないい話が載っているのですね。とても感動しました。

>これこそがまさに日本のものづくりの本質。建国以 来続くプロジェクトXですね。
白鷹さんのお言葉 すばらしい これぞ日本の精神です。私たちが持ち続けなければならない心です。
ご紹介ありがとうございました。

投稿: さくらこ | 2007年7月21日 (土) 08時56分

 日本というのは「人」が唯一の資源で、東アジアの片隅にあるにもかかわらず現在の地位を築き上げたと思います。
 それも、その「人」は中国系のような「商人」ではなく、あくまでも自分のこだわりの中で物を作る「職人」なのではないかと考えていました。

 「職人」はプロとしての視点で、自分の仕事にこだわる。
 そうした人たちによって組織が構成されていたから、日本の組織が強かったと言うことなのではないでしょうか?
(大手企業の製造ラインにも「職人」がいて、先端技術の製品もその方達の技によって具現化された)

 そうした「職人」の仕事が、泥臭く思われるようになり若い人が「技」を身につけなくなり、どんどん高齢化で居なくなってしまった後、「日本は一体どうなるのだろうか?」ちょ思うときが時々あります。

PS.
 物を作るだけではなく、物を売る職人、子供を教える職人なんかも居なくなっているように感じます。
(アニメーションを作る職人、漫画を書く職人なども新たに生まれており、やはり日本は「職人の国」?)

投稿: 山本大成 | 2007年7月21日 (土) 09時20分

さくらこさん
ほんといい話ですね。教材として、先生方にも評判がいいようです。

投稿: 練馬のんべ | 2007年7月21日 (土) 11時01分

山本大成さま
職人がいない日本、というのは想像できませんね。でも、どの世界でも(大企業でも)今までは職人的な仕事がなされていると思います。
ところが現代、正社員を切って派遣社員にし、仕事の「標準化」とやらを図る企業が多い。「ぐろうばるすたんだあど」だかへったくれだか知りませんが、自らの最大の強みを失っているだけ。日本の企業を弱めようという陰謀にはまっているとさえ言えますね。

投稿: 練馬のんべ | 2007年7月21日 (土) 11時16分

>職人がいない日本、というのは想像できませんね。でも、どの世界でも(大企業でも)今までは職人的な仕事がなされていると思います。

本当にそう思います。長い日本の歴史の中で、そういう精神が培われてきたんですね。技術の継承も大切ですが、精神の継承もしていってもらいたい。それなのに、今は海外への生産拠点転出が増えて、せっかくの日本の利点の伝統が途絶えそうで心配です。

投稿: milesta | 2007年7月21日 (土) 21時34分

milestaさん
>技術の継承も大切ですが、精神の継承も
同感!
今、団塊世代の多くの技術者諸氏が中共や韓国で技術指導にあたっていると聞きます。これでは継承もへったくれもありません。

投稿: 練馬のんべ | 2007年7月21日 (土) 21時49分

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