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2006年11月22日 (水)

高校日本史の山川教科書批判(その9補足)

その9補足です。大日本帝国憲法の引用の仕方があまりに恣意的だったので呆れています。

史料に引用されている条文は次の通りです。
((下略)は教科書原文ママ。※はのんべの注釈用)

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第1条
大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス(※)
第3条
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
第4条
天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ
第8条
天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ依リ
帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス(下略)
第11条
天皇ハ陸海空軍ヲ統帥ス
第12条
天皇ハ陸海空軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム
第29条
日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス
第33条
帝国議会ハ貴族院衆議院ノ両院ヲ以テ成立ス
第55条
国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責メニ任ス(下略)
第70条
公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需要アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得(下略)
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なるほど、これだけだといかにも天皇がなんでもできるように見えます。
でも、この取り上げ方、ひどくずるい。

まず無視された立法権の条文。
第5条
天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ

あれ、天皇は立法権を好き勝手できるわけではないですね?「帝国議会の協賛」は、帝国議会が天皇のお手伝いをするという趣旨ではなく、不敬でない表現を使ったのみ、実質的には帝国議会が決める、という意味です。

また、第8条は、引用部分だと、緊急勅令は自由に出せるように見えます。下略の部分が実はミソ。

(下略部分)
此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ

つまり議会の事後承諾がいるんだよ、です。でも、事後承諾が必要とは言え、とりあえずは天皇が好き勝手に勅令を出せる?という疑問には次の通り。

第55条の下略部分
凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス

要するに国務大臣が天皇の名で出す、ということです。

第70条の下略部分も同断。

前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス

いろいろ書きましたが、天皇の名で政府が行政、議会が立法を行う、ということです。司法も同様です。天皇が権限がを持っているわけではありません。
繰り返しますが、天皇機関説(統治権の主体を法人としての国家に帰属させ、天皇は国家の最高機関として憲法に従って統治権を行使する、という説明…山川教科書P327の注より)が正しい。昭和天皇も認めていたところです。

また、国務大臣の任命は内閣総理大臣の奏請に基づくのは慣例であり、国務大臣が議会に対して責任を負うことも伊藤博文が認めていました(明成社版より)

※ここまで読むと、神聖不可侵の意味は、無責任無権力の意味であることが納得できるはず。政治的権力を持つのは常に人間です。したがって、神である天皇は権威の源泉ですが、権力はなく、行使された権力には全く無責任、と宣言しているわけです。まさに日本国憲法の象徴天皇そのものです。

11/24追記:一燈照隅さんからTB頂きました。神聖とは神を示すのではなく、神聖不可侵で意味を為し、不敬禁止、政治的無責任、刑事的無責任、廃立不可、という意味ということです。勉強になりました、ぜひご覧下さい。

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コメント

前から思ってたんですが、これはどこでも同じように恣意的にやってますね。全条文を記載して教師がかいつまんで捻じ曲げるなら(笑)まだしも、生徒に全てを読ませないようにしていること自体異常だと思わないのだろうか。

投稿: とよあしはら | 2006年11月22日 (水) 13時21分

とよあしはらさん
これは私の使っていた教科書でもそうでした。明成社版は第5条も国務大臣の副署も載せていますので、この部分に(限らないが)ついては実にまともです。明成社版、売れないだろうなあ…

投稿: 練馬のんべ | 2006年11月22日 (水) 18時45分

のんべさん こんばんは 
とよあしはらさん はじめまして

副教材も使っているようで、そちらに全文載っているのか???
どちらにしろ、最も使われている山川が偏っているのだからどうしようもないのですが。
あとは、良い先生に当たるかは、宝くじにあたるような確立というか。

高校の教科書は、学校毎に決めていいと、ありましたが・・・。

投稿: ことだま | 2006年11月22日 (水) 21時39分

ことだまさん
さすがに副教材までは調べていませんが、「日本史史料集」にはいくらなんでも載っているのでしょうね。
ところで、副教材には明成社版教科書が一番だと思います。(逆に明成社を使っているところなら山川)読み比べれば子供も結構歴史に興味を持てるんじゃないかなあ。

投稿: 練馬のんべ | 2006年11月22日 (水) 22時51分

副教材とは「日本史史料集」のことでした。
曖昧ですみません。
これに南京大虐殺が載っていたように記憶します。(数は未確認)
いたる所に自虐の罠が張り巡らされているのです。


投稿: ことだま | 2006年11月24日 (金) 12時40分

ことだまさん
南京大虐殺は「南京事件」として本教科書にも載っています。検定前には40万人(中共の30万人を超える!)という数字が載っていたという話を聞いたことがありますが、今は数字は載っていません。なんだかよくわからない記述です。
こんな連載、しないで済む教科書にしてほしいですね。

投稿: 練馬のんべ | 2006年11月25日 (土) 00時12分

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昭和天皇は昭和21年の「国運振興の詔書」(いわゆる人間宣言)によって神格否定して神様から人間になったと言われています。 なぜ天皇が神様と思われたのかと言うと、大日本帝国憲法第3条に「天皇は神聖にして侵すべからず」と書いてあったので、占領軍は神聖を神様(ゴッド)と思ったと考えられます。それで人間宣言を天皇陛下に言わすようにしました。 しかし、この「国運振興の詔書」を読むとけっして人間宣言ではありません。天�... [続きを読む]

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