高校日本史の山川教科書批判(その3)
次は『第3章 貴族政治と国風文化』、藤原氏が実権を握った時代です。ここは比較的平和。
1.摂関政治
そんなに酷い記述はないような気もします。ただ、相も変わらず、天皇に対する敬意は感じられません。醍醐天皇・村上天皇の親政については、『「延喜・天暦の治」とたたえられた。しかし…』という朝日新聞同様のyesBUTが出てきます。注には『律令政治の復興に努力がはらわれ、また『延喜格式』や『古今和歌集』の編纂などの文化事業も行われた。…やがて都や地方の治安が乱れ、律令にもとづく政治はほとんどおこなわれなくなった。』など。
藤原氏についても外戚として大きな権力だとか、朝廷が国政に関して積極的な施策をおこなうことがほとんどみられなくなった、など、とにかくこの時代の政治について非常に否定的な見方で統一されています。
実際にそうなのかどうか、政治が乱れに乱れていた時代なのか、残念ながら私は知識がありません。本屋で歴史書をさがすとどうもマルクス史観が鼻につくような本が多くて信用できませんし…
しかし、現代に至るまで「藤原」だけでなく、「佐藤」「後藤」など、藤原氏に由来する苗字は非常に多い。佐藤は藤原を佐(たす)ける、という意味だし、藤原氏が悪政を行っていたのなら、こんなに現代に藤原関係の苗字が残っているはずないのでは、と思っています。
国際関係は、渤海を滅ぼした遼や新羅を滅ぼした高麗に対して『日本はこれらの諸国とも国交を開こうとはしなかった』という書き方にちょっとひっかかった程度。
2.国風文化
国風文化は大切なのに、ちょっと記述が薄いんじゃないかな、という印象があります。
例えば、
『かなの日記は、紀貫之の『土佐日記』を最初とするが、宮廷に仕える女性の手になるものが多く』
という記述からは、かなも男性が当然に使った、という風にも見えますね。引用するのも馬鹿馬鹿しいほど有名な冒頭は「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり」であり、わざわざ女性の筆に仮託しているのに。
あと、末法思想が著者が好きなのか強調されすぎ。これを強調されると暗くなる。
3.荘園と武士
相変わらず政治の乱ればかりが強調されています。そういうものなのですかね。
以下感想。全般的にどうも乱れていた時代だったということが強調されすぎ。あと、天皇への敬意がない。まあ、最初の章でも古墳を「ヤマト政権の盟主、つまり大王の墓」などと書いて、崇峻天皇以前は天皇という文字は基本的に使わない、などでしたから…
今回はあまり反日全開ではなかったのは、菅原道真公が遣唐使を中止したなど、あまり政治的交流のない時代だからのようです。
あと、書き方があまりにもつまらない。教科書だから仕方がない、というものでもないでしょう。前九年の役なら、ころものたてはほころびにけり、のエピソードくらい欄外でもいいので書けばいいのに…
ここで古代は終わりですが、ここまでで子供は既に歴史嫌いになるのは必定でしょう。
さて次回から中世。近現代史までは遠いけど、まあ70時間でやる内容ですので、履修不足にならないように気を付けて進めます(苦笑)。
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コメント
>国風文化は大切なのに、ちょっと記述が薄いんじゃないかな
明成社では、4ページ半 使っていますよ。
投稿: ことだま | 2006年11月 7日 (火) 21時26分
ことだまさん
確かに。山川は5ページある(ただし1ページの大きさが小さい)けど、文字数でざっくり明成社の4/5くらい、さらに国文学の取り扱いが少ないのでだいぶ少なく感じます。「六歌仙」も載っていません。
明成社のを買ってきたので、比較できてこれはいい。紹介多謝!
古代なら、明成社のにはちゃんと「大和朝廷」「任那」「聖徳太子(厩戸王子)」、それに神武東征も建国伝承として載っていますね。
投稿: 練馬のんべ | 2006年11月 7日 (火) 22時29分
西尾幹二氏の著書に 兄弟版 と書いてあったのです。
投稿: ことだま | 2006年11月 7日 (火) 23時10分
ことだまさん
なるほど。明成社版の著者を見ると、小堀桂一郎氏他。これもなるほどです。でも、全然知名度がないのは、この会社は扶桑社と違って商売下手なんでしょうね。
投稿: 練馬のんべ | 2006年11月 7日 (火) 23時21分
最初の出版社がつぶれたか何かでこの明成社になったんだとか・・?
応援の意味を込めて余分なものまで取り寄せてしまいました(笑)
投稿: ことだま | 2006年11月 7日 (火) 23時38分
ことだまさん
明成社、潰れないでほしいですね。統計を見たわけではありませんが、この本のシェアは低そうです。
投稿: 練馬のんべ | 2006年11月 8日 (水) 00時10分