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2006年5月11日 (木)

将棋界「百年の計」とは

今回の将棋名人戦問題、将棋連盟の対応が実に不誠実です。いきなり失礼千万な「契約解消」の通知書を投げつけておき、後でその真意は「自動更新せずに交渉させて下さい」というだったなどと言っておきながら、今度はいけしゃあしゃあと朝日と共催でどうでしょ、新聞社同士競争して下さい、ですからねえ。
今回の名人戦移管は将棋界百年の計、などとよくぞ言ったものだと呆れます。初手を思い切り間違った以上、通知書は白紙撤回してから再度交渉するのが筋でしょう。

それ以前の大問題は、まず将棋連盟の赤字体質で、その根っこは将棋ファン離れです。目先の金では問題解決になりません。解決策は、連盟が「プロもどき」の相互扶助団体から「真の勝負師」の集まりに脱却すること、それに尽きます。

今回の連盟の理事…米長師・中原師…からは、彼等にとっては連盟に落ちる金と、棋士仲間の支持を受けて自分の権力を磐石にすることがすべて!としか見えません。
一番重要なのは将棋ファンの信頼です。ファン無視では将棋人気が落ちるのは必至、そうなれば新聞社がそっぽを向くこともわからないのか、後は野となれ山となれで目を瞑っているのか…。

労組幹部が経営陣に給料上げろと交渉するのに似ていますが、生活のために身を粉にして働いている一般人で構成される労組と、好きな将棋で食える「プロの勝負師」の集まりたる連盟が一緒では困ります。
今の連盟は、勝てなくてもいい、ファンに頭を下げて普及に努力するのも嫌、対局以外の空いた時間(週に最低6日!)は遊びたい、という「プロもどき」の相互扶助団体に過ぎません。そりゃあ将棋ファンからそっぽを向かれて赤字になるのは当然でしょう。

このままでは将棋界のお先真っ暗、それでも将棋ファンは全く困りません。一番困るのは棋界の将来を担う実力ある若手棋士達です。つまり、米長師・中原師の今の行動の意味は、若手の将来を食い物にすることで「プロもどき」連中を取り巻きにし自分の権力を拡大、ということになります。

ファンが見て面白いのは、勝負師達の真剣勝負。一番面白いのはクビのかかった陥落決定戦です。勝負が面白ければファンは増えます。
従って、将棋界百年の計とは、「厳しい勝負の世界」とファンが納得する制度を創ること、それに尽きるでしょう。
既得権に安住するだけの多数派「プロもどき棋士」たちの反対を押し切って、将棋界を真の勝負の世界にすることにこそ、連盟の活路と将棋界の将来があるはずです。一般人を競争一辺倒の世界に巻き込むのは間違いですが、競争一辺倒でない「プロの勝負師」は無意味です。

具体的には、棋士の対局料や給与を無しにして賞金を増額すること。プロ棋士の入り口を広げ、陥落を厳しくすること。勝者に金が入り敗者は消えていく制度です。
もちろん、将棋一筋の人に「ハイさよなら」では生活できませんし、将棋に情熱があるのならそれを活かさない手はありません。トーナメント棋士をやめ普及に打ち込むことで食える環境を創ることも当然必要、まさにそれこそが連盟の仕事です。

勝てないし普及活動も嫌、などという「プロもどき」を切り捨てれば将棋人気は回復し連盟の赤字体質も改善します。
しかし、既得権者の「プロもどき」達は連盟の多数派です。その痛みを伴う改革は今の連盟では不可能、棋士総会で否決されるのは必至です。

従って、将棋界の将来のためには、連盟は潰す一手です。新聞社が将棋欄で読者を満足させようと思うなら、一度将棋界から手を引いて連盟を潰し、新しい組織で将棋界を活性化するしかありません。名人戦問題で毎日新聞社が手を引くことは、これは将棋界改革の第一歩になりますので大歓迎です。
米長師・中原師がここまで考えてあえて悪役を演じているとすれば、それは伊達騒動で汚名を受け斬られることで伊達家を守った原田甲斐以上の人物です。(山本周五郎「樅の木は残った」参照)

書いて初めて気づきました。今回の騒動は、米長師・中原師が将棋界の将来を見据えた渾身の捨て身の策、まさに将棋界「百年の計」だったのですね。なるほど、実に深い読み、敬服の一語です。

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コメント

将棋のプロ棋士の世界は今でも十分
厳しいですよ。
ただ、厳しい勝負があってもそれを伝える
メディアが少ないのでしょうね。
良心的なファンの方に誤解されていると
思うと悲しいです。

投稿: 中年棋士 | 2006年5月12日 (金) 16時43分

中年棋士さま
コメント有り難うございます。
仰ることはよくわかります。例えばC2の降級点争いの厳しさ、「C2入墨(1つ目の降級点は勝ち越しても消えない)」の制度等。また、NHKの「一番長い日」で面白いのは挑戦者争いより陥落争い、いわゆる「裏の大一番」ですね。

しかし、例えば23連敗のプロ棋士、つまり負け続けている勝負師が給料で食えている現状では、こんな甘い制度では連盟が赤字なのは当たり前、と世間からは見られます。勝負師ではなく、毎日が休日のサラリーマンです。ただし、プロを目指す若者には「産児制限」と言われるほど門を狭くしています。

隣の業界、囲碁界の以前の制度よりもずっと甘い。それでも日本棋院は赤字続きで、加藤正夫先生が結構厳しい(優秀な若手にはチャンスが広がる)大改革を行い、だいぶ赤字が減った筈です。残念ながら加藤先生は過労で亡くなりました。

例えばゴルフならプロには比較的容易になれます。でも、試合には参加費がいるし、予選落ちした試合は賞金も出ない。給料もない。つまり3日目に全く残れないプロは試合では生活できないし結果的に試合にも出られなくなります。勝てば多額の賞金が待っています。

将棋界の「降級点制度」は珍しい制度です。普通は即時に陥落(相撲なら幕下)か、下位クラスとの入替戦です。そのかわり次期に勝てば復帰可能です。

将棋界で普通の制度を考えれば、例えばC2の下位10人は3段リーグ上位10人と入替戦(例えばの話なので、フリークラスは考慮しません)、プロは給料も対局料も出ないが対局に勝てば今までの対局料よりはるかに高い賞金が出る、三段リーグ参加者にも一定の枠を与えて勝ち抜けば対局に参加できる、などです。勝者の総取りが「プロの勝負師」にふさわしいのです。プロの門戸を大幅に広げることで、優秀な若者が棋士を断念することも減ります。

以前、順位戦改革(フリークラス転出の導入)のとき、プロ棋士の間では結構画期的な改革のように見られた模様ですが、ファンからは何の反応もなかったわけです。

もちろんそれだけでは生活できないプロ棋士が続出しますので、普及でも生活できる道を開拓するのが連盟のなすべき仕事です。

無茶苦茶厳しいことを書いていることは百も承知です。しかし、将棋界がこのままではファン離れが進み先細り確実、そんな状況で馬鹿な名人戦騒動を起こしてさらにファン離れが加速するのではあまりに悲しい話です。無茶な、厳しすぎる、と思いつつ記載していることをお察し下されば幸甚です。

投稿: 練馬のんべ | 2006年5月12日 (金) 20時35分

さすがにお詳しい。
でもフリ-クラス棋士は連盟からは200万は無いです。給料だけでは食べられないですね。
あとはなるほどと思いました。

@もちろんそれだけでは生活できないプロ棋士が続出しますので、普及でも生活できる道を開拓するのが連盟のなすべき仕事です。

これは米長会長も同じ考えですね。


投稿: 中年棋士 | 2006年5月12日 (金) 23時02分

中年棋士さま
再度のご意見有り難うございます。棋士給与の詳細までは知りませんので、参考になりました。

もうひとつ、我ながら書いていて無茶だなあ、と思ったことがあります。
「普及でも生活できる道を開拓するのが連盟のなすべき仕事」
とさらっと書いたこと。これができるならもうやってるよ、と思う方も多いでしょう。
実際、囲碁の加藤改革の後、囲碁棋士は「お稽古」に活路を見いだしていますが、「企業お稽古」が大幅に減っている現状では苦しいようです。

まして、将棋界には「お稽古」の文化は元々あまりないので今から企業の新規開拓など難しいでしょう。またよしんばそれができても、将棋棋士は稽古将棋でうまいことお客様の「お相手」をして喜ばせるのが下手な人が多いので、長続きし難い、という伝説があります。囲碁棋士は伝統的に「お相手」するのがまことに上手。王様が取られたらおしまいの将棋と、1目負けなら惜しかったで済む囲碁の差でしょうか。いずれにしても、企業にお稽古文化を今から根付かせるのはまず無理でしょう。

企業のお稽古はだめ。なら、子供はどうか。それは次回のテーマにしますので是非読んでください。5/13の夕方までにはアップできると思います。

投稿: 練馬のんべ | 2006年5月13日 (土) 07時46分

本当にお詳しいです。
また、将棋に対する愛情が感じられてうれしく思います。
アップ楽しみにしています。


投稿: 中年棋士 | 2006年5月13日 (土) 11時09分

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