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2006年1月 1日 (日)

教育再生会議第一次報告への各紙社説(2007/1/27記載)

朝日【社説】2007年01月26日(金曜日)付
教育再生 見切り発車は危ない

 教育再生会議の第1次報告を受けて、安倍首相は提言の実現に必要な法律改正案をこの国会に出す考えを表明した。法案づくりを担当する文部科学省は大急ぎで作業を始めた。

 今の教育がさまざまな問題を抱えていることは間違いない。早い改革を願う国民も多いだろう。首相が指導力を発揮しようと意気込むのも理解できる。

 問題は、改革の中身と方向である。

 柱の一つは、教員免許法の改正だ。いまの教員免許に有効期限はないが、これを10年間とし、講習を修了すれば更新する。中央教育審議会はそんな制度を答申したが、教育再生会議は不適格教員を排除するような厳しい更新制を求めた。

 私たちも、教える力のない教師には退場してもらいたいと思う。けれど、教師を萎縮(いしゅく)させ、教職をめざす学生を減らしかねない制度は行き過ぎだ。厳格化にはそうした副作用が心配される。

 学校教育法も改正して、校長の補佐役として副校長や主幹のポストを新設する。教師が雑務から解放され、子どもと向き合う時間が増えるなら結構だろう。

 だが、増員なしで管理職を増やすだけなら、逆に現場の教育力は落ちてしまう。増員予算の裏付けが必要だ。

 もっと心配なのは、教育委員会のあり方を根本的に見直すという、地方教育行政法の改正である。

 現在は都道府県と政令指定都市が持つ教員の人事権を、できるだけ市町村に移管する。その代わり、小さな市町村の教育委員会は統合する。教育再生会議はそう提言した。

 ほとんどの小中学校は市町村が設立しているのに、教師は人事権を持つ都道府県に目を向けがちだ。多くの市町村は、人事権が移れば教師の意識が変わると期待している。

 その一方で、第1次報告は国が教育委員会の基準や指針を決め、外部評価制度を導入するよう求めた。教育長の任命に関与する仕組みの検討も求めている。

 地域がその子どもたちの教育のあり方を決められるようにする分権の方向性と、国の関与を強める方向性が混在している。どちらで進めようというのか、これは重大な問題をはらんでいる。

 実現すれば、教育現場を大きく変えるものばかりだ。それにしては、あまりに議論が不足し、疑問点が多い。再生会議のメンバーにも戸惑いの声がある。

 そんな懸念を振り払い、見切り発車で法案化を急ぐ背景には、夏の参院選をにらんで政策の目玉をつくろうという政権の思惑が透けて見える。下がり続ける支持率を挽回(ばんかい)するためにも、最重要課題と位置づける教育改革で具体的な姿を示したいということなのだろう。

 だが、第1次報告が「社会総がかりで教育再生を」とうたったように、教育とは社会全体で取り組むべき事業である。

 国民や現場の声を幅広く集め、合意をつくる努力がもっと必要だ。それなしに実のある改革はできるはずがない。

1月25日付・読売社説(1)
 [教育再生会議]「国民的議論のたたき台ができた」

 報告書の表題に「社会総がかりで教育再生を」とある。公教育の再生のためには全国民的な参画が欠かせない、というメッセージが伝わってくる。

 安倍首相直属の教育再生会議が第1次報告をまとめた。取り組むべき課題を掲げた「7つの提言」が柱だ。

 「新味に欠ける」「議論不足」といった批判もあるが、3か月足らずで、教育の根本議論のたたき台をまとめ上げた委員たちの労は多としたい。どの提言をどう実現させていくのか、今後は首相の判断と国会の対応が問われよう。

 提言の最大の特徴は、「ゆとり教育見直し」を明確に打ち出したことだ。「授業時数10%増」「基礎・基本の反復」「薄すぎる教科書の改善」などを提唱し、学習指導要領の改定を求めている。

 子どもの学力低下の不安が広がった背景には、教える内容や授業時数を大幅に削ったゆとり教育がある。今回、政府の有識者会議として、初めて“脱ゆとり”を宣言した意味は大きい。

 「学校週5日制見直し」も今後の検討課題に挙げられた。学力向上を図るために多面的な議論を深めてもらいたい。

 報告書は、提言の内容に沿った速やかな法改正も求めている。

 免許更新制の導入に伴う教員免許法改正もその一つだ。「指導力不足」などの不適格教員を教壇から排除し、「免許を取り上げる」仕組みを提案した。文科相の諮問機関・中央教育審議会が答申した更新制よりも厳しい内容だ。

 文科省は再度、中教審に諮った上、改正法案を通常国会に提出するという。再生会議の提言の趣旨を損なわないよう、十分配慮すべきだ。

 教育委員会の抜本改革のため、地方教育行政組織法改正も緊急課題だとしている。廃止論もあったが、「いじめ」や高校必修逃れ問題での不適切な対応などを機に、逆に機能再生論が高まった。

 「責任の明確化」「教員人事権の市町村教委への委譲」「第三者機関による教委の外部評価」などが提案された。

 一方で、文科省の、教委への指揮監督権限強化も検討課題とされた。国の関与を強めるのであれば、タウンミーティングの「やらせ質問」や、必修逃れの実態を把握しながら教委への指導を怠っていた問題などについて、文科省自体の反省と点検が欠かせないのではないか。

 いじめを繰り返す子どもへの出席停止制度の活用、教師の体罰を禁じた規定の見直しなども盛られている。家庭の「しつけ」の大切さにも言及している。

 報告書をもとに、まさに国民「総がかり」で教育を論じるべき時である。

毎日社説:教育再生提言 せいては百年の大計を誤る
 政府の教育再生会議が第1次報告を決定し、安倍晋三首相は関連法改正案を通常国会に提出すると表明した。いじめ自殺、履修不足など相次ぐ教育問題や矛盾に素早く対処することに異存はないが、今回の報告の内容や方向は、もっと時間をかけて国民の間に合意や理解を形成すべきものだ。法という形ばかり急いでも実りある成果がないどころか、混乱をもたらすだけになりかねない。

 現状を「公教育の機能不全」とみる報告は改革へ「社会総がかり」を唱え、学力強化、いじめや校内暴力の根絶、教員の質向上、教育委員会の変革などを挙げた。教育、特に学校教育はその時代の価値観や目標を背景に、緩やかながら多くの国民の「このようなものだ」という考えを映している。そういう意味で、今回の報告を読み進めると、これは広く意見を集め、論議を掘り下げるべきだと思われる問題に次々行き当たる。

 例えば、「体罰の範囲の見直し」はあっさりと記述されているが、戦後学校教育の基本理念にもかかわる重大な提起だ。体罰は学校教育法が禁じ、通知によって禁止行為が示されている。直接的な暴力だけではなく、肉体的な苦痛を与えたり、教室から追い出すことなどもその範囲に入る。

 校内暴力やいじめ、学級崩壊、授業妨害など深刻な問題に対処するためにはある程度やむをえないという考え方もあるだろう。それはそうとしても、心や人格を傷つけることがあり、教育上もしばしば逆効果になるとして一切禁止を定めにしてきた体罰を「国が今年度中に見直し、周知徹底のうえ新学期から各学校で取り組めるようにする」とは、あまりに短兵急ではないか。

 また、学力強化のため「教育委員会・学校は補習などを行う『土曜スクール』を実施するよう努める」としているのは、遠回しの表現ながら実質的に学校6日制復活の意を含むとも読める。

 確かに土曜補習をしている公立学校は既にあり、私立の多くが5日制を採用していない実態からみてこの提起には根拠がある。しかし、5日制導入に際しては論議と試行を重ねた。見直すにしても社会の週休2日制との兼ね合いも含め、再びコンセンサスを得るよう進めるべきだろう。

 「魅力的で尊敬できる先生」の育成にしても、「問題解決能力が問われている」教育委員会の変革にしても、その必要性に疑いはない。だが、現場の実情や意見を十分に踏まえながら、改善の目標が具体的なイメージで国民に共有されるように論議を着実に重ねなければならない。

 改正教育基本法の国会審議の際、私たちは、この法によって具体的にどのような新しい学校教育を実現しようとしているのか政府は示すべきだと求めた。それは果たされなかった。

 今から国会に出されようとしている関連法改正案は日々の学校教育活動に直結する。まず改正ありき、ではない。国民にもっと語りかけ、知恵を集めよう。

産経社説1/20
【主張】教育再生 ゆとり教育見直しを評価
 政府の教育再生会議(野依良治座長)の第1次報告内容がまとまった。その中で、昨年12月に発表された骨子案では見送られた「ゆとり教育の見直し」が明記された。授業時間を現行の10%増とし、教科書の改善や学習指導要領の早期改定も行うとしている。

 ゆとり教育を主導してきた文部科学省や自民党文教関係議員の抵抗を退けた結果であり、安倍晋三首相のリーダーシップが発揮されたといえる。

 いじめを繰り返すなど、極端に問題がある児童への出席停止措置を認めることも明記された。いじめ対策に、より多くの選択肢を残すものだろう。指導力に欠ける不適格教員を排除するための教員免許更新制度導入と、今後5年間で2割以上を目標に教員への民間人登用を目指すことも、硬直化が指摘される教育現場に新風を送り込み、生徒・児童の学習意欲を喚起する有効な手段の一つであろう。

 また骨子案で「情報公開を進める」という表現にとどまった教育委員会制度改革では、第三者機関による外部評価制度の新設が盛り込まれた。「さらに掘り下げた議論を」と注文をつけた首相の意向に沿ったものだ。

 もちろん、授業時間を10%増やしただけでゆとり教育で生じた学力の低下が回復できるのかという疑問は残る。とくに、小中学生の学習量は昭和50年代に比べて半減しており、夏休みの短縮や土曜日、平日放課後の補習などで授業時間を増やしても急速な学力向上は難しいとの指摘もある。

 とはいえ、大幅な授業時間増は、いたずらに教育現場の混乱をもたらす危険性がある。生徒・児童、学校の適応具合を見極めながら段階的に引き上げていくことが必要ではないか。

 ゆとり教育により、学習塾などで金をかけ学力を補っている「できる子」と、その余裕がなくて「できない子」との二極分化が進んでいるとされる。経済格差が教育格差につながっているとの見方で、首相も、「公教育を再生していかなければ、格差は拡大していく」と述べている。

 見直しが一日遅れれば、その分だけこうした格差が拡大する可能性は高い。政府には報告に基づいて早急に教育再生関連法案をとりまとめ、一日も早い成立をはかるよう求めたい。

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